「ふ〜〜。こんなものか……」
午後の3時に差しかかる辺り、ようやく部屋に荷物を運び終えた。軽い物はあゆと名雪と達矢が、重い物は俺と古河さんが運ぶという感じに役割分担をし、効率良い作業を行うことが出来た。
「みんな、今日は手伝ってくれてどうもありがとう」
作業を終えたのを見計らい、俺は手伝ってくれたみんなにお礼の言葉をかけた。
「ううん。ボクも祐一くんのお役に立ててうれしかったよ!」
「あっ、僕はえっと、その……。とても充実した時間だったよ」
達矢はあゆの顔をチラチラと見つつそう応えた。確かに、片思いだった少女に数年振りに再会して同じ時間を過ごせたのだから、達矢にとっては充実した時間だっただろう。片思いというのは俺の想像だけど、多分間違っていないだろう。
「ん? 小僧、このダンボール箱に入っているのはいいのか?」
「ええ。それは本やらプラモやらですし。そういったものは自分勝手に並べたいんで」
部屋の片隅に置かれたままのダンボール箱について訊ねて来た古河さんに、俺はそう答えた。箱の中にはプラモやら漫画本やら俺の趣味で集めたものがこれでもかと詰め込まれている。やはりそういうものは自分でああだこうだ思考しながら配置やらを考えるのが楽しいし、ある意味自分の時間なので他人の干渉を受けたくはない。
「本やらプラモやらねぇ……。エロ本とエロフィギュアの間違いじゃねえか?」
「そんなもん、入ってないですよ!」
俺はからかう古河さんに必死で否定した。いや確かに、何冊かのエロ本は入ってるけど、流石にエロフィギュアなんてものにまで手を出すほどの好事家ではない。
「じゃあ、箱いっぱいにエロゲーが積み込まれているのかな?」
「それは、達矢、お前の話だろうが!」
「やだなぁ、流石の僕だってダンボール箱いっぱいになる程の数は持ってないよ」
「ま、何にせよ。否定されれば否定されるほど見たくなるのがにんげんのサガってものよ」
「あっ、ちょっと!」
静止する俺を振り切り、古河さんがダンボール箱に手をかけた。
「なっ、なんじゃこりゃーー!!」
「ど、どうしたの、たい焼き屋のおじさん! そんなにおどろくものが入ってたの!?」
驚く古河さんに反応し、あゆが段ボール箱に近付こうとした。
「来るなっ、あゆ! これをお前が見るのは早過ぎる! 見た瞬間妊娠しちまうぞ!!」
「えっ!? 妊娠? 何だか分からないけど、すごそうなのが入ってるんだね」
「……。祐一、本当に箱いっぱいの嫌らしい本が入ってるの?」
「違うって、名雪!」
俺は軽蔑の眼差しで見つめる名雪に、必死で否定した。って言うか、見ただけで妊娠するってどういうモノだっ!?
「わっ、これは本当に子宝に恵まれそうだね」
「達矢! お前までからかうのか!?」
「いや、だってホラ、赤いし。赤色と赤ちゃんかけたつもりなんだけど」
「赤いからってそんな婦女子の前で洒落にならんネタを言うなっ」
「赤いって……。やっぱりそっち系のものが入ってるのかな……?」
赤いという達矢の言葉に反応して、名雪が恐る恐る箱の中を見始めた。
「何これ……。何か赤一色だけど……」
「ふっ、水瀬さんの娘さんには分からねぇだろうな。いいか、これはシャア専用と言ってだな……」
その後、数分間古河さんによるシャア談義が続いた。箱の中はなんてことはない、健全なる男子諸君ならば誰もが必ずしも持っているであろう、ガンプラだ。ただ俺のは普通のと違って全部赤く塗られているだけだ。
名付けてシャア専用補完計画! 全てのガンプラを赤く塗ろうという壮大な計画だ。今はまだジオン系のメカにしか手を付けていないが、いずれは連邦やUC以外のガンプラも赤く染めたいと思っている。
「全部シャア専用色か。これはジュンの『オールガンダムハイパーモード発動化計画』に勝るとも劣らないものだね」
どうやら潤も俺に似た構想を抱いているらしい。全部金色とは、流石はキングオブハートと言った所か。しかし、古河さんも達矢も、俺が説明するまでなくシャア専用だと理解した所を見ると、二人とも筋金入りのガンヲタだ。
「赤色って女の子のイメージが強いから、ちょっと意外かな」
確かに、名雪の言うように赤は女の子のイメージが強い。例えば、女性の小学生のランドセルやトイレの標識は赤だ。それらの一般的な事例から連想すれば、確かに赤は女の子の色だと思うことだろう。
しかしである。よくよく考えてみて欲しい。例えば健全なる男子諸君ならば幼少の頃確実にハマる戦隊物のリーダーは、例外はあれど体外は赤色の戦闘服を着ている。また、シャア専用は言わずもがな、仮面ライダーのマフラーだって赤いし、ウルトラマンの身体も赤を基調としている。
このように、赤色というのは女の子の色に思われがちだが、実は男の子の色であることも分かる。それぞれの性別においてニュアンスや印象は異なるものの、男女双方に似合う色に違いはないだろう。
「あれっ、これは……」
まじまじと箱の中を観賞していた達矢が異質な物を見つけたのか、声をあげた。
「ねえ、祐一。このザクVとキュベレイが赤く塗られていないね」
「何ぃ、こんだけ赤く塗られているのにザクVとキュベレイが赤く塗られてねぇだ!? ひょっとして小僧、マシュマー様ラブラブのハマーン様原理主義者でプルツー嫌いか?」
「ハマーン様もマシュマーも好きなキャラですけど、偏愛している訳じゃないし、プルツーは普通に萌えていますよ」
二人が疑問に思うのも無理はない。ザクVは地球連邦軍の開発したハイザックとは違い、正当なザクの後継機だ。ジオンのMS全てを赤く塗ろうなんて考えたら、ファーストのMSの次くらいに赤く塗っても不思議ではない。
そしてキュベレイはシャア専用ではなく、プルツー専用機として公式で赤色のバージョンがある。公式で赤色があるのに赤く塗らないなんて、ガンヲタから奇異な目で見られても仕方がない。
「ダメなんだ。白い物を赤く染めるのは……」
俺はそう細々と呟いた。自分でも言ったように、この二つは真っ先に赤く塗っても不思議ではないプラモだし、実際に赤く塗ろうとした。
けど、ダメだった。少し塗っただけで突然気分が悪くなり、それ以上作業が続けられなくなった。何度か試みたが、結果はいつも同じだった。自分でもよく分からないが、どうも生理的に白いものを赤く染めるのはダメらしい。
「でも、プラモはまだいい方なんだ。イチゴサンデーやイチゴのかき氷に比べれば……」
赤色のイチゴシロップを、アイスや氷にかける。白い冷たい塊を赤く染める行為、それを実行しようとすると単に気分が悪くなるを通り越して頭痛や嘔吐感に苛まれる。
「そっか、祐一イチゴサンデー受け付けないんだね。ごめんね、朝イチゴサンデーを奢ってなんて言って」
「いや、謝る必要ないよ。事情を知らなかったんだし。それに奢るのは別に自分が食べるわけじゃないから大丈夫だ」
「そう、ならいいんだけど……。それっていつ頃からなの。昔よく来ていた時はそんな感じじゃなかったけど?」
「ああ。ここに来てた頃は普通に食べていた気がする。生理的に受け付けなくなったのは、この街に来なくなってからだ」
そう、駄目になったのは、思い出が止まった7年前のあの冬からだ。この街に来なくなったのと白い物を赤く染める行為を生理的に受け付けなくなったのは同時期だ。二つの事例に関連があるのは間違いない。けど、関連があるのまでは分かっているのに、何故そうなったのかは相変わらず思い出せない。
「……。心の傷はまだ癒えちゃいない、か……。やっぱテメェはまだ坊やだよ」
えっ……!? 知っているんですか、古河さん、あなたは……。俺の封じられた心の記憶の枷を……。
「まっ、塗る気がないってんなら俺が貰っておくぜ」
「えっ、ちょっと、古河さん」
俺は古河さんの口から俺の記憶に関する言葉が出ることを期待した。でも、実際に古河さんの口から出た言葉は、ガンプラを貰っていくという、到底了承出来ない言葉だった。
「あん? まさか小僧、この俺様をタダ働きさせようって言うんじゃねぇだろうな。こっちはわざわざ忙しい仕事の合間を練ってだな……」
「お父さん、ウソはいけません」
そんな時だ。突然見知らぬ少女が部屋に姿を現した。
「君は……?」
俺は見知らぬ少女に声をかけた。
「秋子さんのご許可をいただきましたので、勝手に二階まで上がって来ちゃいました。あなたが祐一さんですね。初めまして。わたしは古河渚って言います」
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第九話「渚と朋也」
「お父さん、『客来ねぇ〜〜ヒマだぁ〜〜』なんて言いながら店番してたんですよ。そこに秋子さんからお電話が来まして『ヨッシャ、いいヒマつぶしになるぜ』って喜びながら駆け付けたんですよ。えへへ」
笑顔で父親の行動の詳細を語る渚ちゃん。まあ、確かに作業中の古河さんは嫌な顔一つしていなかったけど。
「それで、渚ちゃんはお父さんにお店番させる為に、迎えにでも来たのかな?」
「こんにちはです、名雪さん。いえ、お店の方は代わりにお母さんが店番をしているから大丈夫です。わたしはお父さんに頼まれていたのを届けに来ただけです」
「届けに来た?」
「こんにちはです、達矢さん。はい、パンです」
そう言い終えるや否や、早速持ってきたパンをみんなに配る渚ちゃん。何ていうか、見た目は中学生くらいなのに、物腰はあゆなんかより落ち着いている雰囲気がある。
「ひょっとしてこれ早苗さんの焼いた……」
「心配するな達矢、これは正真正銘俺が焼いたパンだ。みんな重労働を強いられて腹ペコになるだろうと思ってよ、頃合いを見て渚に届けるように言っていたんだよ」
成程、手伝ったものに対する労いというわけか。でもそれは、本来ならば俺がやるべきことなのだ。この人は自分が手伝いを頼んだわけじゃないのに、娘に労いのパンをわざわざ持って来させたのだ。
渚ちゃんの言葉も踏まえるならば、ひょっとして古河さんは物凄くお人よしな人なのかもしれない。俺を子供扱いするのは気に入らないけど。
「でも、元々持って来る予定だったなら、予め持って来れば良かったんじゃないです?」
俺は素朴な疑問を投げかけた。元々労うつもりだったなら、予め持って来た方が手間が省けたはずだと。
「分かっちゃいねぇな、小僧。いいか? 予め持って来たならみんなお前の為じゃなく、パンの為に働いてしまうだろうが。せっかくてめぇの為に善意で集まって来た奴等が利益の為に働いちゃ、いい気分しねぇだろうが」
「言われてみれば確かに……」
確かに言われてみればその通りだ。古河さんも達矢もみんな、何かの利益を求めて手伝いに来たんじゃなくて、純粋に俺の頼みを聞き入れて手伝いに来てくれたんだ。それがもし頑張った後に何かを労うとしよう。そうすれば何の見返りがない状態よりも頑張って働くかもしれない。
でも、後から何かしらの見返りがあると思えば、少なからず利益の為に働いてしまうのが人間だ。もし、古河さんが予め労いのパンを持って来たなら、みんなは俺の為じゃなく、古河さんのパンの為に働いてしまうかもしれない。
今、ここに集まったみんなは見返り程度で心を動かす人間じゃないというのは分かってる。それでも、予めパンを持って来ていたなら、少なからず場の雰囲気は悪いものへと変化していたかもしれない。
ようは、心遣いの問題だ。同じパンを労うという行為でも、予め労うのと後から労うのとでは印象が大きく異なる。古河さんはその辺りの気配りがしっかり出来ている大人だと思った。外見上はどうにもガサツな人間にしか見えないのだが。
まったく、人間というものは本当に外見じゃ何も判断出来ない。
「それにな。俺みたいなオッサンにパン渡されるよりも、お持ち帰りしたくなるほどかわいい美少女に渡された方が、てめぇも気分がいいだろ?」
「それは確かに」
「お、お父さんっ! み、みなさんがいる前でそんな恥ずかしいこと言わないでくださいっ」
かわいい美少女いう表現がよっぽど恥ずかしかったのか、渚ちゃんは顔を赤らめながら下を俯いたのだった。
「ガッハッハ。相変わらずめんこい娘だな〜〜。ま、今のは冗談だとして、パンはともかく、あゆの好物は先に持って来るわけにはいかないからな」
「わあっ、たい焼きだ!」
各々にパンが配られていく中、ただ一人あゆの元には大切そうに新聞紙に包まれたものが配られた。あゆが包みを丁寧に開けてくと、中から出て来たのはたい焼きだった。成程、確かにたい焼きは予め持ってくることは出来ない。すっかり冷めたたい焼きなど、どこにも旨味がないのだから。
しかし、あゆは昼食時秋子さんの手料理を食べる傍ら、腹いっぱいたい焼きを食べたはずだが。あゆと古河さんの話を信じるなら、またたい焼きをタダであげたことになる。他のパンもタダで労ったものだし、古河パンの経営は成り立つのだろうかと、他人事ながら心配になってくる。
「あったかいたい焼きを届けてくれてありがと、渚ちゃん」
「いえいえ、どう致しまして、あゆお姉さん」
「ぶっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ〜〜! はひはひ!!」
「? わたし、何かおかしなこと言いましたか?」
「ぶっ! お、おかしいも何も、あゆに対してぶっはっは! 『お姉さん』はないだろ〜〜!! げじゃげじゃじゃ!! フヒフ」
確かにあゆの方が年上だが、いくらなんでも「お姉さん」はない。どう見たってあゆはお姉さんって柄じゃないだろう。あまりの可笑しさに俺は、再びレイディバグを患ってしまった。
「笑うなんてヒドイです! 誰が何と言おうと、あゆさんはわたしにとって大切なお姉さんです。あゆお姉さんに対する侮辱はわたしが許しません! ぷんぷんっ」
あゆを姉として慕っていることを侮辱されたと思ったのか、渚ちゃんはぷんぷんっと怒り出した。しかし、そんな愛らしい怒られ方しても、こちらは全然申し訳ないと思わないんだけど。
「わたし、怒っちゃいました。こうなったら、今後祐一さんのことを祐一お兄さんと呼びますっ!」
「えっ!?」
怒ったのは分かるけど、どうしてそれで俺をお兄さんと呼ぶことになるんだ?まあ、悪い呼び方じゃないけど。
「笑うなんてヒドイです! 祐一お兄さん!」
「うぐっ!?」
「祐一お兄さんがそんなヒドイ人だとは、わたし、知りませんでした!」
「ぐはっ!」
な、なんだこの感じはっ!? おっ、お兄さんという呼称が加わっただけで、これほどまでに心に直接ダメージを与えるものなのかっ!?
「もう絶交です、祐一お兄さん!」
「わ、悪かった。あ、謝るから。ゴメン、笑ったりなんかして」
あまりの執拗な精神攻撃にATフィールドが破られそうになり、俺は降参して素直に謝った。
「えへへ。分かればいいのです、祐一お兄さん」
「もうお兄さんと言う呼び方は止めてくれ……」
「まっ、そういうわけだ。パン代としてプラモは貰っておくぜ。それなら文句はないだろ」
「あっ、はい」
話を戻すように古河さんが声をかけて来た。パンを賄ってもらったお礼にプラモを2体もあげるのは割が合わない気もするけど、手伝ってもらったし赤く塗れないプラモなのだからと、俺は古河さんにプラモをあげることを承諾した。
「んじゃ俺はそろそろ帰るぜ」
「はい。今日は色々とどうもありがとうございました」
「ではわたしもこれで。さようならです、祐一お兄さん」
「だからもうお兄さんは止めてくれ……」
「ダメです。わたし、気に入っちゃいました。えへへ」
嫌味なのか素で気に入ったのか分からないけど、渚ちゃんは最後まで俺のことを「お兄さん」と呼びながら古河さんと共に俺の部屋を後にした。まあ、渚ちゃんのように可愛い娘に兄呼ばわりするのは恥ずかしい反面、悪くないとも思う。古河さんを父親と思うことは出来そうにないけど。
「あゆ〜〜。ついでだからこのまま”学校”に行かねえか〜〜」
去り際、古河さんが思い立って廊下の先からあゆに声をかけた。
「あっ、そうだね。祐一くん、悪いけどボクこれから学校に行かなくちゃいけないからもう帰るね」
「学校? 今は冬休みじゃないのか?」
「ううん。ボクの学校冬休みとかないし。その代わり冬休みの宿題とかもないけどね」
「そっか。ま、頑張れよ、あゆ」
「うん! ボクがんばるよ。じゃあね、バイバイ祐一くん。それにみんな」
あゆは手を大きく振りながら古河さん達に付いて行くよう俺の部屋を後にしたのだった。
「はは、僕はその他大勢か……」
「ご愁傷様。しかし、冬休みのない学校って、どんな学校なんだろうな」
「多分、塾のことを指しているんじゃないかな?」
「ああ、成程」
確かに達矢の言うように塾だったとしたら冬休みなんかない。寧ろ塾の場合休みの時期の方が通う日が多かったりするものだ。勉強熱心なようには見えないけど、その影であゆは一生懸命頑張っているのだなと、俺は感心しながら頷いたのだった。 |
「よお祐一、買って来たぜ」
古川さん達が帰ってから数分後、潤がアニメージュを買って来た。
「サンキュー、潤」
俺は潤が差し出したアニメージュを手に取ろうとした。しかし俺が手に取ろうとした瞬間、潤は一度差し出したアニメージュを引っ込めたのだった。
「何だよ、もったいぶらずに早く渡せよ」
「ただでは ゆずれんぞ! おまえの命をもらおう!」
「てめえ ゆるさん! 戦う」
「その言葉、待ってたぜ。バトル開始は30分後、お前の部屋でだ!」
「ちょっと待て、バトル開始ってどういうことだ?」
ついノリで戦うと言ってしまったが、冗談じゃなく本当に戦う展開になるとは思わなかった。なので、俺は一体何で戦おうとしているのか潤に訊ねた。
「昨日中止になったバーコードバトルをこれからやろうってんだよ。優勝商品はオレが買って来たアニメージュだ。お前が買った場合は大人しくやる。その代わりもしオレが勝ったら、アニメージュの代金をお前に払ってもらうぜ」
「面白い、受けて立つぜ! 達矢、お前はどうする?」
「そうだね。僕もまだアニメージュ買ってなかったし、受けて立つよ」
達矢も乗る気のようで、こうして俺達は急遽バーコードバトルを催すこととなった。
「そういうわけだ。名雪、お前もちゃんと準備するんだぞ」
「祐一、わたし、別にアニメ雑誌なんか欲しくないんだけど……」
「安心しろ、お前はただの数合わせだ。4人で遊べるゲームを3人で遊んだろつまんないだろ? スネ夫みたいに仲間外れにしないだけありがたいと思え」
「そういう男の子の遊びは寧ろ仲間外れにしてもらいたいんだけど……。分かったよ、わたしはわたしの方で準備しとくよ」 |
「お待たせ、二人とも!」
十分ほどして、達矢が部屋に上がって来た。潤は既にバーコードを持って来ていたようで、これで後は名雪を待つだけとなった。
「……やっぱりヤダよ、なゆねえ……」
開始の時間が迫った頃、部屋の外から小声で話す声が聞こえて来た。
「……あとで何かおごるから、お願い……」
「……分かったよ……」
声を聞く限り、名雪と誰かが話しているようだ。
「お待たせ〜〜」
話がまとまったのか、ようやく名雪が部屋に入って来た。
「名雪、今誰かと話していたのか?」
「うん。わたしのピンチヒッターだよ」
「ピンチヒッター?」
「ほらっ、そんなに怖がらないで入って来て、ともちゃん」
「……」
名雪に呼ばれ、しぶしぶした顔で一人の少年が部屋に入って来た。
「名雪、誰だその少年?」
「岡崎朋也君って言う近所のお子さん。中学一年生でわたしの弟みたいな子かな」
近所の名雪にとって弟みたいな少年。つまり、名雪にとっては年下の幼馴染みといった所か。
「そういうわけだ。俺がなゆねえのピンチヒッターだ。俺がなゆねえに代わってお前を叩きのめしてやる!」
「なっ、年上をお前呼ばわりとはいい度胸じゃないか! 返り討ちにしてやる!!」
まだまだ中一の青二才とはいえ、初対面のガキにお前呼ばわりするのはいい気分じゃない。俺は朋也の挑発に乗る形で叫び返したのだった。こうして名雪が連れて来た朋也を含めた4人でのバーコードバトルは開始された。
…第九話完
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※後書き
| 改訂版第九話です。大体「Kanon傳」の第七話後半部に相当する回です。今回の冒頭の話は、改訂前でもあったシャアネタですね。このネタはSS関係の掲示板で話題に上がったこともありましたので、そういう意味では削るに削れない話ですね。
さて、上のエピソードの後に「CLANNAD」ヒロインの渚が登場して来たわけですが、渚は今後ストーリーにも大きく関わる予定です。
対する「CLANNAD」主人公の朋也は、単なるサブキャラで終わりそうです。中一であることに加え、名雪の弟分補正がかかって、原作より大分子供っぽいキャラになることでしょうね(笑)。 |
壱拾話へ
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